IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 291

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「これは業界を変える。」その言い方の足元には、たいてい一つの理論の名前があります。この号が見るのは、理論の正否ではなく、どこで、誰に、どう試されたのか、です。

批判は、査読〔=同じ分野の研究者が、載せる前に中身を検討する手続き〕の外だけにあるのではありません。当たった範囲では、査読誌に3本。いちばん広く出回った数え上げのほうが、査読誌ではありませんでした。

全文まで読めたのは、8本のうち3本。読めていないものについては書きません。会社名も、製品名も、人名も出しません。

2011年、査読誌 Marketing Science の研究がこの理論を正面から検定しました。抄録の書き出し——「この理論は、循環した定義、不十分な実証、予測できる模型の欠如に悩まされている。」〔循環した定義=「破壊的だったから破壊が起きた」式の、外から確かめようのない定義〕

材料は、七つの市場の36の技術。結果は通説と逆。下から攻める技術は新規参入者と同じ頻度で既存企業からも導入され、古い技術より安くはなく、企業を破壊することはまれ。新規参入も下からの攻めも、破壊の危険度を有意に下げた。性能は複数回交差し、互いを破壊しないまま並存する、とも。

ただし同じ抄録の終わりに「提案した予測模型は、標本の外でも良い予測精度を示す」。理論の側に予測できる模型が無いと書き、自分たちの模型は当たったと報告した形です。無作為に割り付けた実験ではありません。読めたのは抄録までです。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
七つの市場の36の技術。下から攻める技術は既存企業からも同じ頻度で導入され、古い技術より安くはなく、企業を破壊することはまれ。2011年・査読誌・この号が読めたのは抄録まで。 Visual: ALIFE

この検定は一本きりではありません。査読誌にあった3本のうち、全文まで読めたのは真ん中の1本だけです。

012004年の論考は、理論を五つの論点に分けた。抄録が挙げる五つは、定義、予測に使うこと、既存企業の成功の説明、顧客志向の利点への含意、事業化のための別会社。読めたのは抄録までで、よく引かれる三つの一文は引きません。

022006年の論考は、別々の現象が混ざっていると書いた。この号が全文まで読めた1本。同じ理論があらゆる破壊の説明に使われたのは誤りだ、と書き出します。技術の側の破壊は、事業のしくみの側とも製品の側とも別の現象——「すべての型を一つの分類に押し込むのは、りんごとみかんを混ぜることにすぎない」。

032011年の検定は、通説と逆の三点を報告した。分母の36は、事例集の事例の数ではなく、この研究がデータを集めた技術の数です。ただし同じ抄録は、著者らの予測模型は標本の外でも当たったとも書きます。読めたのは抄録まで。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
2004年は抄録まで・2006年は本文の全文・2011年は抄録まで。査読誌にあったのは、この3本。 Visual: ALIFE

2015年の秋、査読誌ではない実務誌 MIT Sloan Management Review に調査が出ました。読めたのは無料公開の冒頭まで。出発点は、理論は広く使われているのに、その妥当性と一般化可能性は学術文献でほとんど検定されてこなかった、というものです

数え上げです。提唱者側が挙げた77件の事例を79人の専門家に問い合わせ、4つの要素に分けて評定してもらった。すべてに当てはまったのは9%。77件に戻すと7件ですが、この「7件」は割り戻した数で、印字されているのは百分率のほうです。

その9%を、原典の本文では確かめていません。読んだのは、著者の一方が所属する経営大学院が出した紹介記事で、そこにこう引かれています——「我々は、破壊の理論を捨てることを勧めない。むしろ、その最良の部分を、古典的な戦略分析の手法に加えて使うことを勧める。」数え直した側が、捨てろとは書いていない。

どの要素に何件が当てはまらなかったかの内訳は書きません。読めたどの範囲にも、印字されていませんでした。

翌年春、同じ実務誌の別の号に3人の討議(提唱者本人は含まれません)。1本目は理論の側に立つ研究者からの反論——「私の数えでは、破壊を検定し問い直している論文が40本を超えて存在する。」挙げられた2006年1月の号は、「りんごとみかん」の論考が載る号と同じです。

査読誌に載った提唱者側の総説は2018年。抄録は、中核の原理が誤解されたまま実務家に流通したこと、後続の実証研究が鍵となる論点にほとんど取り組んでこなかったことを書きます。同じ号でも同じ誌でもなく、3年後です。

01「この理論は、査読で否定された」。査読誌にあるのは、五つの論点、型の切り分け、36技術の検定です。77件・79人・9%の数え上げは、査読誌ではない実務誌に載りました。その検定でさえ、理論は当たらないという結論では終わっていません。

02「9%なのだから、捨てるべきだ」。9%だけを持ち出して廃棄の合図に使うのは、原典の逆接を半分で切ることです。数え直した側は、捨てるなと書いています。ただし読んだのは、原典の本文ではなく紹介記事の側です。

03「反論は無い」「反論は同じ場所に載っている」。2015年秋の数え上げと2016年春の討議は実務誌、2018年の提唱者側の総説は別の査読誌です。同じ号での往復は、読んだ範囲にありません。学術文献ではほとんど検定されてこなかった、という出発点そのものが争われています。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りている写真
査読誌にあるのは検定と批判・捨てろとは書かれていない・反論の載った場所は分かれている。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

使った資料は8本、全文まで読めたのは3本です。2011年の検定は七つの市場の36の技術、2015年の調査は77件の事例と79人の専門家——どの市場か、どの産業か、期間はいつかは印字されていません。原典は国を書いていません。見ている単位は技術・事例・企業であって、人ひとりではありません。読めた範囲に、無作為な割り付けの記述はありません。

これは経営の助言ではありません。どの技術に賭けるか、どの会社が危ないかは、どこにも書いていません。最後に一つ、2013年の短い論考の著者稿から。「失敗率は95%だとしばしば引用される。しかし本人はそう言ったことを否定し、失敗率はもっと低いと述べた。」〔人名は伏せました。この号が扱う理論の提唱者です〕

77件の事例のうち、4つの要素すべてに当てはまったのは9%。
その数え上げが載ったのは、査読誌ではありませんでした。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。聞いた数字を書き写したとき何が起きるかを測った研究は、この号にはありません。判定も、良し悪しも書きません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    この1週間で見聞きした「これは業界を変える」「破壊的だ」という言い方を1つ選び、**見た場所の種類だけ**を書く(社内の資料、報道、交流サイト、広告など)。媒体名も社名も人名も書きません。

  2. 02NOTE

    数字が付いていたかを見る。付いていたら、**数字と、その分母(何件のうち何件か)と、いつのものか**を書き写す。無ければ「記載なし」と書く。

  3. 03CHECK

    出どころが示されていたかだけを見て、「記載あり」か「記載なし」と書く。調べに行く必要はありません。記録は、この3行だけです。

5分。採点はありません。**出どころを実際に辿るのは、この課題の外です。**誰にも見せず、提出もしません。同僚や取引先を判定する課題ではなく、どの技術や会社に賭けるかの判断にも使えません。気が重くなったら中止を。

年の順に並べ直しても、動いたのは中身ではなく、どこに載ったかのほうでした。呼び名は、2006年の論考が誤りだと書いた時点からほとんど変わらずに使われつづけています——というのが、この号の読み筋です。

確かめられたのは、四つ。査読誌の批判が3本あったこと。2011年の検定が通説と逆の三点を報告し、同じ抄録が、予測模型は標本の外でも当たるとも書いていたこと。9%の数え上げは査読誌ではない雑誌に載り、この号はそれを紹介記事で読んだこと。翌年春の反論が、理論を擁護する側からだったこと。今日残せるのは判定ではありません。場所の種類と、数字と、出どころの有無。3行の記録が、1件残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「技術の種を市場につなぐには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。