IN LEARNING & GROWTH · ISSUE 199

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が、鏡に映った自分の顔を静かに見つめている写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

いちばん硬い数字は、2006年のメタ分析に。育てられた人と育てられなかった人を比べた14件の研究、88個の効果量〔群の差を、ばらつき単位で表した値〕。平均0.2437(標準偏差0.120・95%信頼区間0.175〜0.311)。

同じ論文は始まり方でも割ります。差は出ましたが、支えは合わせて5件でした。

扱うのは、誰が誰を育てているか、どう測られてきたかだけ。誰が優れているかではなく、比べる土台の話です。

よく見るのは、全員が教え、全員が学ぶほうが、組織の学習は速いという一文。代表に挙がる2012年の一般向けの書籍は読んでいません。

読んだのは査読誌の側。2001年の論文は、人の発達を複数の関係の集まりとして捉え直し、多様さと、つながりの強さの2軸で類型を立てました。命題は7つ、検証はこれから——測定ではありません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が、鏡に映った自分の顔を静かに見つめている写真
多様さと、つながりの強さ。2001年の論文が置いた軸は2本で、命題は7つ。効果の測定ではありません。 Visual: ALIFE

では、測るとどうなるか。読んだ6本は、独立した6件ではありません。同じ研究者が2本に入り、文献も重なります。

01本人に聞いた指標は .06から .26。外から数える指標は、報酬 .12 と、相関3つの昇進 .31。2004年のメタ分析、43件の研究。集計は bare bones〔標本誤差だけを見込んだ観測相関の加重平均〕、k は相関の数で研究の件数ではありません。本人に聞いた側——キャリアへの満足 .21(相関7つ・2,602人・95%信頼区間 .13〜.28)、昇進の見込みへの期待 .26(3・691人・.23〜.30)、職務満足 .18(10・3,029人・.12〜.25)、キャリアへのコミットメント .15(4・2,207人・.09〜.22)、組織に留まる意思 .06(3・1,606人・−.05〜.17)。最後はゼロをまたぎ、明確な差とは言えません(.01 まで薄めるのに要る研究数15は表内最小)。外から数える側は報酬 .12(7・2,260人・.06〜.19)、昇進の回数 .31(3・561人・.27〜.35)——使える数字のある研究は3件だけ、と著者。結論は、利点はおおむね支持されるが客観的な指標の効果量は小さい。

02始まり方で割ると差は出た。ただし公式は3件、自然発生は2件。同じ指標で、別のメタ分析は逆の判定。14件は、1988-2004年の106本→比較群のある23本→同じデータの2組を各1件に統合→効果量を出せない7件を除外、の残り。88個の効果量は個々が −.5568〜.8440、研究ごとの値でも .106〜.691 に散らばる。統合値は統合値です。成果ごとの表では職務満足0.387(10件)・昇進の見込み0.485(4件)・コミットメント0.200(3件)が有意な一方、報酬0.149(6件・−0.021〜0.320)、昇進の回数0.474(2件・−0.031〜0.979)、留まる意思0.099(4件)、在籍年数0.037(3件)、他社の機会0.036(3件)はゼロをまたぎ、明確な差とは言えません。昇進の回数を、2004年の論文は .31(相関3つ)で有意、この論文は0.474(研究2件)で有意でないと報告。報酬も同じ(.12で有意/0.149で有意でない)。単位もkの意味も集計も違い、比較群のある論文の3分の2が重なるとも。束ね方で判定が入れ替わります。

03育てた側にも数字は出た。5つのうち4つは自己申告で、著者たち自身が先に満足していた可能性を書いている。2013年のメタ分析、18件。比較の表にあるのは3つ——職務満足 .123(相関4つ・1,617人・95%信頼区間 .08〜.16)、組織へのコミットメント .12(4・1,736人・.08〜.16)、離職の意思 −.035(3・1,460人・−.09〜.02)。3つ目はゼロをまたぎ、明確な差とは言えません。推定量のラベルは原典内で割れます(方法の節は bare bones、表の注は測定誤差を補正した加重相関)。測った5つのうち4つは自己申告で、職務の遂行だけが自分と他者の両方の報告です。著者たち自身が、「育てる側になる人が、そもそも育てていない人より満足していて、成功している可能性は、捨てきれない」と書き、因果の結びつけは慎重に、とも。逆向きも——政府の職員の1本では、キャリアの支援を多く提供した人ほど組織を離れる可能性が高い。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
相関で並べた比較/始まり方で割った比較/育てた側と、分野をまたいだ集計。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

動くのは、引用の途中です。落ちやすいのは3か所。

01「公式のプログラムは効かない」と読むと、3件と2件が消える。数字はそう並びます(公式0.057・−0.163〜0.279でゼロをまたぐ/自然発生0.259・0.051〜0.468で有意)。消えるのは隣の列。公式3件、自然発生2件です。著者自身の但し書きも同じ表に——「研究が2件しかなく、信頼区間の下限がゼロにきわめて近いので、慎重に見るべき」。説明の候補も、同じ論文の考察に。ただし言葉の主は2000年の別の研究です。育成する側は、いちばん助けを必要とする人ではなく、見込みの大きい人を選んでいた。望ましい特徴が成功へ押し出す特徴と同じなら、単純な比較は育成の有用性を語らない——引かれるのはその一文。始まる前に、選別が起きている。ただし可能性まで——大きさを測った数字は、6本のどこにもありません。

02「分散させるほど速い」と読むと、命題が結果に化ける。出どころの2001年の論文には、効果を測った表も標本の記述もありません。しかも命題の中身は逆を向いています。4つの型は「関わる人が多いほどよい」という並びではなく、多様だが弱いつながりの型は、個人の学びがいちばん少ない側でした。「検証は存在しない」とは書きません。書けるのは、読んだ6本に、分散と集中を比べて学習の速さを測った研究は無かった、というところまで。

03「育てた側にも良いことがある」と読むと、選抜と、測り方が消える。消えるのは2つ。1つ目は選抜の可能性。育てる側でも同じことが起きうる、と著者たち自身が書いています。2つ目は測り方。ほとんどが自己申告で、離職の意思はゼロをまたぎます。2008年の、青少年・学業・職場をまたぐ集計(112件の研究と報告・3件が複数標本で116の独立標本)も同じ向き。ただし効果量はおおむね小さく、固定効果からランダム効果〔真の値が研究ごとに違うと置く〕に替えると心身のストレスだけが有意でなくなります(−.04〈−.07〜−.01〉→ −.03〈−.07〜.02〉、薄めるのに要る研究数0)。職場だけなら助け合いの行動 .26(5件・1,653人)や対人関係 .19(10件)は大きめ、離脱行動 −.03(4件・−.11〜.05)は明確な差とは言えません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
公式は効かないと読む・分散させるほど速いと読む・育てた側にも良いことがあると読む。落ちるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは6点のうち5点。残る1点は抄録までで、内側は書きません。性別は14件中3件のみ報告(信頼区間が広く、性差の主張には使いません)。国の内訳を示した論文はなく、日本で実施と書かれた研究もありません。水準はほぼ個人。チーム・事業単位・企業を単位に学習の速さを測ったものも、規模を報告した論文もゼロ。

「この形にすれば人が育つ」という数値はありません。6本のうち、無作為な割り付けを持つ実験は1本もないからです。2006年の論文自身が、精査した106本のうち実験計画は3件だけ、入った14件はすべて自己申告の調査で、回答率は22〜75%(平均46%)と書きます。2022年の批判的レビューも、良い結果と見えるのは特定の状況の特定の集団まで、危険や費用の側ははるかに研究されていない、とも。しかも選抜の一節の出どころは、6本の2本に入る同じ2人が2000年に書いた論文でした。

差を支えていたのは、3件と2件でした。
選ばれ方が違えば、比べる土台も違う。

次の3手も、研究が命じた順番ではなく、ALIFEが提案する実践の入口です。判定しません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    直近1か月で、誰かに教えた・見せた・質問に答えた場面を1件だけ書く。用件だけでよく、相手は書きません。無ければ「無かった」と。

  2. 02MARK

    その横に、相手がもともとできる人だったかの印を1つ。「できた」「できなかった」「わからない」から選ぶだけ。**採点ではありません。**

  3. 03KEEP

    日付を1つ足す。残すのは用件・印1つ・日付の3つだけ。確認も感想も要らず、誰にも見せません。

2分。職場に相手がいなければ、家族や知人への回答でも同じ形。**他人の力量は書かない。評価しない。提出しない。**つらくなったら中止し、信頼できる相談先へ。

育成責任の分散は配置の名前で、速さの保証ではない——というのが、この号の読み筋です。確かめられたのは三つ。差を支えていたのが3件と2件だったこと。いちばん大きな正の結果を出した論文の著者たちが、別の論文で、選ばれ方が違えば比較は何も語らないと書いたこと。育てた側の数字にも、先に満足していた可能性が残ること。6本のどれも、無作為な割り付けを持ちません。書けたのは、差の前に、誰が選ばれていたかという段がある、まで。記録が1件、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS育成責任の分散を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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ISSUE 198同じページに、逆があった。ISSUE 200上の段は、3件だけだった。
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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。