IN LEARNING & GROWTH · ISSUE 197

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頭をあずけ、白い掛け布団にくるまって静かに目を閉じている女性を横から写した写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

能力開発の話には、必ず同じ配分が出てきます。70対20対10。仕事の経験が70、人からの薫陶が20、研修が10。足すと100になり、3つとも10の倍数。測って出た数字がこれほど行儀よく並ぶことは、あまりありません。

では、どこから来たのか。2018年の研究が書いています。出どころは、6つの大企業の200人を超える成功した経営幹部を対象にした、1988年の4つの別々の調査。挑戦的な仕事の経験が学びの70%、他者や上司との関係が20%、公式な訓練が10%。要は次の文です——"The 70:20:10 framework was popularized through the book"(この枠組みは、書籍を通じて広まった)。

この号は、その1988年の書籍そのものに到達していません。4つの調査の実文を読んでいないので、「配分を測った研究はどこにも無い」とも「探したが見つからなかった」とも書きません。書けるのは、同じ2018年の査読論文2本が報告したことまでです。

経験設計の質(experience design)が扱うのは、経験のどんな性質が学習と結びついているか、だけです。

同じ2018年に出たもう1本は、5つの文献の系統を読み直しました——"the evidential basis for the 70% rule is weak"(70%の決まりごとの証拠基盤は弱い)。批判は3つ、雑な学術的作法・一貫しない概念化・研究手続きの根本的な問題。結論は、この決まりごとは脇に置く必要がある。

書き分けが要ります。この「70%の決まりごと」は、職務にもとづく学習の70%以上が非公式に起きるという主張。70対20対10 の「70」は、経営幹部の学びに占める挑戦的な仕事の経験の割合。同じ数字ですが、同じ主張ではありません。1980年代以降の「経験の70%から80%」を紹介した前者は、その文で後者を引いています(本文7か所)。独立に同じ結論へ至った2本ではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で外の街明かりを見ている女性。ガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
配分の帯を描くのは誰にでもできる。何がどれだけ結びついていたかを描くのは、別の作業になる。 Visual: ALIFE

その「別の作業」は、どこまで進んでいるのか。まず測られたのは、この3本です。

017割以上が非公式に起きるという主張を5つの文献の系統から読み直した2018年の検討は、証拠基盤が弱いと結論した。新しくデータを取った研究ではなく、文献の読み直しです。人を割り付けた試験でもないので、「非公式な学習に効果が無い」とは言っていません。

02オーストラリアの公共部門の管理職ら145人に聞いた2018年の研究。枠組みを実装しても、望まれた成果は達成されていなかった。政府機関の上級管理職5人、中間管理職18人への個別の聞き取り、13回の集団聞き取りの122人で、合計145人。ただし同じ節は、13群のうち10群が12〜14人、3群が5〜8人とも書きます。最少でも135人になり、122人と合いません。望まれた転移(学んだことが仕事で使われること)は起きず、取り違えが4つ。限定も原典に——"limited by its application to the public sector in Australia"(オーストラリアの公共部門への適用に限られる)。

0360人の管理職の225の職務経験では、挑戦度が上がるほど技能の伸びは鈍り、フィードバックのある状況では鈍りが打ち消された。2009年の研究が見たのは量ではなく難度。関係は収穫逓減の型で、増え方が鈍る形。ある点から下向きに転じるとは書かれていません。そして——"access to feedback can offset the diminishing returns"(フィードバックへのアクセスは収穫逓減を相殺しうる)。225は経験の数、60は人の数。1人あたりの内訳は、要旨に印字がありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
5つの文献の系統を読み直した検討/オーストラリアの公共部門の管理職ら145人/60人の管理職の225の職務経験。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字は動きません。動くのは、引用されていく途中のほうです。落ちやすいのは3か所。

01「難しい仕事ほど育つ」と読むと、難しさが一本の目盛りに畳まれる。経験を5つの型に分ける1994年の枠組みは、30年影響してきました。2025年6月26日に先行公開され2026年の冊子に載った研究が検証しました。研究1は2017年の先行研究の部分的な追試、研究2は新しい標本。どちらも支持せず、経験は5つではなく2つ(対人的な難しさと仕事の複雑さ)に分かれました。仕事の複雑さだけが高い指導への自信と結びつき、対人的な難しさは逆でした。著者らは"may hinder development"(発達を妨げるかもしれない)と書きます。「妨げる」ではありません。一本の目盛りにまとめると、逆を向いた側は平均に消えます。

02「自分の学習スタイルを診断してから経験を選ぶ」と読むと、診断票の中身が確かめられないまま順番だけが残る。1984年の循環から作られた診断票を、2002年の検討が調べます。疑わしい方法論、統計の誤用、理論の不整合、裏づけの欠如。1996年の手引きの内的整合性の係数は .71 から .85〔設問どうしがそろって動くかの目安〕ですが、その作り方への批判も併記されます。標準化標本は18歳から60歳の1,446人、内訳は男性638人・女性801人。足すと1,439人で、7人足りません。結論は、学習スタイルの適切な測定とは言えない。ただし何かは測っているようで、判別的・予測的妥当性を支持する研究はある、とも。調べられたのは診断票の性質で、診断してから経験を選ぶと学習が増えるか、ではありません。

03「7割が値切られたのだから、仕事のなかの学習ごと当てにならない」と読むと、55,514人分が消える。2018年のメタ分析は、自分から学ぶ行動を集計します。ランダム効果〔研究ごとに本当の値が違う前提で平均を推定するやり方〕で、k = 49、N = 55,514。kが何の49かは要旨が定義しておらず、確かめていません。働く成人で、態度 ρ = .29、知識や技能の獲得 .41、成果 .42。ρは測り方の不確かさを補正した推定相関で、観測値は要旨にありません。相関なのでどちらが先かは言えません。要旨の1文目は、過去20年で合意が広がったとして"70% to 90% of organizational learning occurs not through formal training but informally"(組織の学習の70%から90%は、公式な研修ではなく非公式に起きる)。値切りは2行目、数字は1行目です。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
難しさを一本の目盛りにする・診断してから経験を選ぶ・数字ごと捨てる。取り違えは、この三か所。 Visual: ALIFE

数えられたのは、働く成人55,514人分、管理職ら145人、225の職務経験、診断票の1,446人。5つの系統の検討は、人ではなく文献を数えた仕事。実施国の印字はオーストラリアの1本だけ。1本は「書かれていない」ではなく、性別と民族を集めなかった、と原典が書きます。水準は6本とも個人。全文まで読めたのは6点のうち2点。読めていないものについては書きません。

「経験を70%にすれば人が育つ」という効果の数値は、ここにありません。6本のうち無作為に割り付けたものは1本もなく、効く・変える・伸ばすという言い方も出てきません。.29 と .41 と .42 は相関で、見通しではありません。配分は自分で検算できません。難度は自分で書き留められます。

あの配分は、本から来た。
それでも、難度は自分で書き留められる。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。難度で分けたら何が起きるかを確かめた研究は、ありません。採点しません。難しい側に印を増やすことも、目標にしません。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    紙かメモアプリを開く。**直近3か月の仕事や作業を、3件だけ書き出す。**30分で終わったものでも構いません。

  2. 02PLACE

    **3件それぞれに、「やったことがある」「少し背伸び」「まったく初めて」のどれかを添える。**順位は付けません。

  3. 03LOOK

    **3つの段のうち、どこが空いているかを一度だけ見る。**埋めに行く必要はありません。残すのは3件と印だけです。

3分。採点はありません。**あなたの能力や成長の速さを測るものではありません。**「まったく初めて」が0件でも、学んでいない証拠にはなりません——どんな仕事が回ってくるかは、雇用の形や配属で違います。組織にいなければ、家のことや趣味の作業でも構いません。他人の仕事は数えない、誰かの難度を判定しない、提出しない。つらくなったら中止し、必要に応じて信頼できる相談先や医療・支援の専門家へ。

確かめられたのは4つ。出どころは1988年の4つの調査で、広めたのは書籍だったこと。同じ2018年の検討が証拠基盤は弱いと結論し、しかも前者が後者を引いていること。実装した現場では、望まれた転移が起きていなかったこと。そして55,514人分のメタ分析が .29 / .41 / .42 を報告したこと。足して100になり、3つとも10の倍数で、しかも自分では検算できない。だから、この配分は運ばれやすい。今日残せるのは3件と、その横の印だけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS経験設計の質を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。