IN WAYS OF THINKING · ISSUE 182

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

同じ交通事故の映像を見た人に、質問文の動詞だけを差し替えて速度を尋ねる。1974年の実験は、それだけです。45人の学生に5秒から30秒の映像7本を見せ、「車どうしが◯◯したとき、どれくらいの速さでしたか」と尋ねました。◯◯は激突した・衝突した・ぶつかった・当たった・接触したの5つ。動詞ごとに9人ずつ。平均の推定速度はその順に40.5・39.3・38.1・34.0・31.8マイル毎時。上と下の差は8.7マイル毎時。映像は、全員同じでした。

(実際の速さが書かれているのは、7本のうち演出された衝突である4本だけ。時速20マイル1本、30マイル1本、40マイル2本。)渡せるのは、語が1つ違うと答えがどれだけ違ったと記録されているか、まで。「定義をそろえれば議論が進む」という効果は渡しません。それを検証した一次情報に、読めた範囲でたどり着けませんでした。

意味(Meaning)は、語が何かを運ぶ器だという見方の名前ではありません。定義は相手と合意するために書くのではなく、自分がいま何を測っているかを判断の前に固定するために書く——というのが、この号の読み筋です。数字になっているのは、目撃の実験、判定の課題、公的統計の定義文の三系統。同じ号に並んでいても、同じ物差しではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で外の街明かりを見ている女性。ガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
答えたのは、映像を見た45人と150人、大学院生100人、点を1,000回判定した21人。同じ物差しではない。 Visual: ALIFE

では、それぞれどこまで測られているのか。まず測られたのは、この3本です。

011週間後、見ていないガラスを16人が見たと答えた。同じ1974年の報告の2つめの実験は、150人の学生を50人ずつ3群に分けました。「激突した」で尋ねる群、「当たった」で尋ねる群、速度を尋ねない群。1週間後、全員に、映像に無かった割れたガラスを見たかを尋ねます。見たと答えたのは、「激突した」の群で50人中16人、「当たった」で7人、尋ねなかった群で6人。第1実験の45人と第2実験の150人は別集団で、分母も違います(動詞ごとに9人か、群ごとに50人か)。

02無かった納屋を、17.3%が見たと答えた。冠詞1語でも動いた。同じ研究者が1975年に出した報告は、4つの実験・のべ490人(150+40+150+150)。第3実験は150人に事故の映像を見せ、片方の群にだけ、映像に無い納屋を前提に含む質問をしました。1週間後、この群の17.3%が納屋を見たと答え、前提を含まない群は2.7%(χ²(1)=8.96、p<.01〔割合の差が偶然だけで起こる程度の目安〕)。同じ年の短い報告は大学院生100人を半分に分け、冠詞 a と the の1語だけを入れ替えました。a の側は「分からない」が2倍以上——the の側では半分以下。映っていなかったものを「見た」は7%から15%へ2倍以上。

03青が減ると、それまで青でなかった点が青になった。2018年の研究の表題は、著者らの言葉で「有病率が引き起こす概念変化」〔有病率=当てはまるものが全体に占める割合〕。第1研究は、22人が参加し1人ぶんを除いた21人ぶんのデータ。紫から青まで連続的に変わる点を1,000試行、1つずつ判定させ、半数ずつ安定条件と減少条件へ無作為に割り付けます。減少条件では青い点の出現率が試行1〜200の50%から試行351〜1000の6%へ下がり、それまで青でないと答えていた点を、青と答えるようになりました。同じ向きは48人への脅威の判定(b=4.84、標準誤差0.86、z=5.61、95%信頼区間[3.12, 6.53])でも、ハーバード大学の学生84人への研究計画の倫理判定(b=5.10、標準誤差1.02、z=4.98、[3.09, 7.10])でも出ています。この2つにp値は書きません。原典に印字が確認できなかったからです。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
5つの動詞・存在を前提にした冠詞・出現率を下げた1,000試行。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

動くのは数字ではなく、引用されていく途中です。落ちやすいのは3か所。

01「定義をそろえれば議論が進む」の出どころが、たどれない。議論がすれ違うのは定義が曖昧だから、先に定義をそろえれば議論は進む——よく言われる主張です。この号は、この主張を書きません。結果をどこに置いて探しても、読めた範囲にその効果を測った一次情報はありませんでした。存在しない、とは書きません。代わりに大量に出てくるのは、語が違うと答えが違う、という逆向きの結果でした。

023本の実験を、独立した3つの証拠として数えてしまう。1974年・1975年・1975年の3本は、独立していません。3本とも同じ研究者の連作。長いほうの1975年の報告は、参考文献に同じ年の短い報告を挙げています。刺激映像の使い回しの可能性も記録されています。長短2本の第1実験の刺激の記述が、同型だからです。ただし、この疑いが当たるのは第1実験の側。本文で引いた納屋は第3実験で、こちらは別の映像です。同じ主張が3か所にあるのではなく、1本の連作が3か所に見えている。

03定義は数字の前置きに見えるが、数字そのものを作っている。総務省統計局の「労働力調査 用語の解説」は、完全失業者を三つの条件をすべて満たす者と決めています——①仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者ではない。)。②仕事があればすぐ就くことができる。③調査週間中に、仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む。)。三つめがあるので、働きたいけれど探すのをやめている人は、完全失業者に数えられません。同じ資料は、15歳以上の人口のうち「就業者」と「完全失業者」以外の者を非労働力人口と決めています。数えられなかった人は、そちらです。目盛りでも同じです。1985年の調査実験は、1日にテレビを見る時間の選択肢を「30分まで」から「2時間半より多い」までにした場合と、「2時間半まで」から「4時間半より多い」までにした場合とで比べました。前者の回答者は後者より少ない視聴時間を報告し、平均的な視聴時間の見積りも低かった。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
出どころがたどれない・連作を3証拠と数える・定義を前置きだと思う。読み違いは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは6点のうち5点。残る1点は抄録の範囲までで、そこから先は書きません。性別と年齢の公表は2018年の研究だけ。第1研究は男6・女16(平均22.5歳)、第6研究は男28・女20・不明1(平均20.8歳)、第7研究は男16・女66・不明2(平均20.73歳)——第7研究は約8割が女性です。1970年代の3本と1985年の調査には書かれていません。現場は米国の大学と実験室の課題(1985年の調査の実施国は書かれていません)。

無作為な割り付けが明記されているのは2018年の研究(3研究とも)だけ。1974年・1975年の報告と1985年の調査には、割り付けの手続きの記述がありません。だからどこにも「効く」「変える」とは書いていません。「定義をそろえれば議論が進む」も、「定義を決めても無駄だ」も、語を書き出せば判断が良くなるも、この号の6本からは出てきません。

同じ映像で、8.7マイル違った。
青が減ると、青が広がった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。自分の使った語の範囲を書き出すと何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。ALIFEが提案する実践の入口です。語が指していた範囲を、以下では帯と呼びます。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    **直近1週間で自分が使った抽象的な語を1つだけ**書き写す(早めに、ちゃんと、だいたい、品質)。

  2. 02DRAW

    その下に、**自分がその語で指していた帯を、数か日付で1行**書く(「早めに=今日の18時まで」)。数で書けなければ「不可」でよい。書けないと分かること自体が結果です。

  3. 03PAIR

    最後に、相手が指していそうな帯を同じく1行書いて、上下に並べる(「早めに=今週中」)。推定でかまいません。

5分。採点はありません。**自分の言葉づかいを評価する課題ではありません。**相手の定義は正さない。確認も訂正も、誰かに見せる必要もありません。組織にいなくても、店や家族とのやりとりで同じ形です。**苦しくなったら中止してください。**つらさにつながる場合は、この課題より先に、信頼できる相談先や医療の専門家へ。

確かめられたのは三つ。同じ映像で動詞を1つ変えると、推定速度が8.7マイル違ったこと。前提を含む質問と冠詞1語で、無かったものを見たという答えが増えたこと。当てはまるものが減ると、判定の境界のほうが動いたこと。正しい定義の作り方は、どこにも書かれていません。——今日残せるのは判定ではありません。使った語が1つと、自分の帯が1行、相手の帯が1行。記録が1件、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS意味を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

Next in ways of thinking

VIEW ALL
ISSUE 181見えている部品が、自信を当てていた。ISSUE 183同じデータで、20対9に割れた。
ALIFE · ISSUE 182

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。