IN WAYS OF THINKING · ISSUE 179

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頬をつけて目を閉じ、白い掛け布団にくるまって眠っている女性を横から写した写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

答えと同じ形の話を3分で暗記したばかりだとします。それでも、使わない。1980年の研究がその形を作りました。アメリカの大学の有償の被験者プールの学部生27人が、3つの短い話を1話3分で暗記します。真ん中は、軍を小さく分けて複数の道から同時に進ませ、城の前で合流させる将軍の話。

続くのは放射線の問題。腫瘍を壊すのに十分な放射線は、通り道の組織まで壊します。どうするか。被験者は無作為に2条件へ割り付けられ、片方の教示にだけ一文が足してありました。「この問題を解くとき、前に読んだ話のどれかが解のヒントになるかもしれない」。一文があった12人のうち11人(92%)が解を書き、無かった15人では3人(20%)。その15人のうち12人が、話を使うことは思いつかなかったと答えています。

この号が扱うのは、うまい比喩の作り方ではなく、思いつく手前です。発想法の手順は渡しません。類推が上手くなれば成果が上がる、という検証は、6本のどこにも無いからです。

類推(Analogy)は、ある領域で成り立つ関係を別の領域へ写す道具です。運ばれるのは、ものではなく、ものとものの、あいだの関係。分けて同時に進ませ合流させる骨組みは、城攻めにも放射線にも当てはまります。良し悪しを決めるのは、似ているかどうかではなく、どこが似ていることにしたか。記憶の実験・問題解決の実験・分類の実験は、同じ物差しではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で外の街明かりを見ている女性。ガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
答えたのは、大学生と、数分から数十分の課題。同じ物差しではない。 Visual: ALIFE

測られたのは、この3本です。

01思い出された話と、健全だと評定された話は、別だった。1993年の研究の実験1は、アメリカの大学の学生30人。6〜8日後に手がかりを渡して思い出させると、見た目が似ているだけ .78、骨組みだけが同じもの .44。ところが同じ30人に推論の健全さ(inferential soundness)を1から5で評定させると順位が逆になり、骨組みが同じ 4.40、見た目だけ 2.80。2つの測定は無相関(r(52)=.15)。実験2は想起した学部生36人で .53 対 .12、評定は別の20人で 4.16 対 2.70。第4の研究では、強制選択の再認なら関係構造で選び分けられます。忘れていたのではありません。

02物語を読ませたら8%が76%になった。ただし76%の内訳がある。1980年の研究の実験IIは、放射線の問題の前に、城を攻める将軍の物語を読ませました。5クラスの学部生143人を、攻め落とすために軍を分ける版47人、目標だけを外した行進の版45人、物語なしの統制50人へ。結果は、攻める版76%、行進の版49%、統制8%。ただし原典の表は解を2つに分けており、攻める版の76%は完全57%+部分19%の合計。完全な解だけなら57%です。冒頭の実験IVも同じ論文です。

03同じ数のグループを作って、分ける基準だけが違った。1981年の研究は、物理学科の博士課程上級生8人と、力学を1学期終えたばかりの学部生8人に、教科書の24問を解き方の似ているものへ分けさせました。量的にはほとんど差が出ていません。グループ数は8.4と8.6、2回目の分け方も1回目とよく一致。違ったのは基準だけ。学部生はばね・斜面・滑車という表面構造、博士課程の学生はエネルギー保存則やニュートンの第二法則(F=MA)で分けました。8人と8人の比較で、能力を測った実験ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
思い出しと健全さ・物語と放射線問題・熟達者と初学者の分類。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

動くのは、引用されていく途中のほうです。落ちやすいのは3か所。

01「遠い分野から借りるほど良い」が、いちばん難しい段階を自分で難しくする。遠くから比喩を借りるほど発想が飛ぶ、と売られます。難所の場所が違います。1993年の実験で思い出す側を動かしていたのは、見た目のほうでした(.78 対 .44、.53 対 .12)。遠い分野の話ほど見た目は似ておらず、思い出す段階の助けが薄くなります。1987年の研究によれば、構造の似ていることが効くのは、関連性が指摘されたあとで使えるかどうかの段階です。遠さを目標にするのは、前半をわざと難しくして、後半だけを楽にすることです。(この1本だけは原典本文へ再到達できていません。)

0230分後と1週間後の数字が、条件の名前を落として運ばれる。1989年の研究の実験2は、心理学入門の学生97人を、「比較」の有無×30分後/1週間後の4条件へ無作為に割り付けました。よく引かれるのは30分後 11%→71%、1週間後 7%→47%(ヒント前→合計)。これは比較ありの条件だけの値で、比較をしなかった側は 10%→58%、6%→38%。しかも比較の有無に有意な差は出ていません。遅延後に自発的な転移が無く、どの条件も低い値に張りついた(床効果)ため、原典は「…比較教示の効果について何の結論も引き出せない」と書きます。「2つ並べると効く」は同じ論文の実験1(77人を4条件へ無作為に、遅延なし)の話で、2物語を見比べた群がヒント前47%。ただし統制群は無く、10%の基線は先行研究から借りた数字です。実験1の効果は、遅延をはさんだ実験2で消えています。

0376%が、「類推を使えば解ける」の証拠として運ばれる。流通の多い形が「物語を1つ読ませただけで76%が解いた」です。76%は完全な解57%と部分的な解19%の合計。相手の8%は物語を読まなかった群で、76%は物語を読み、しかもヒントになるかもしれないと伝えられた群です。ひとことの効果そのものではありません。それを測った1983年の続きの研究では、ヒントなしで進ませると解けたのは約30%、ヒントがあれば約75%。原典は、何も無ければ約10%が解くと仮定したうえで、「自発的に気づいたのは3分の1以下である」と書きます。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
遠さを目標にする・条件の名前が落ちる・76%の内訳が落ちる。読み違いは、この三か所。 Visual: ALIFE

答えたのは、アメリカの大学の学生です——30人、36人と別の20人、5クラスの143人、被験者プールの27人、77人と97人、博士課程上級生8人と学部生8人。課題は数百語の物語と数分から数十分の作業で、締切はありません。読めた6本に、日本語の追試はひとつもありません。独立した6つの検証でもありません。4本に同じ著者が入り、うち3本は同じ大学の学生プールです。

無作為に割り付けたと原典にあるのは、1980年の実験IV(27人を2条件へ)と1989年の2つの実験(77人と97人を4条件へ)だけで、他の4本に割り付けの記載はありません。因果の向きで言えるのは、その2本だけ。「類推が上手くなれば仕事の成果が上がる」は、この6本のどこからも出てきません。測られたのは物語と放射線の問題と物理の問題カードだけです。逆向きの「類推は役に立たない」も出てきません。ひとこと告げられたあとは、解けているからです。

思い出したのは、似ているほうだった。
健全だと評定したのは、似ていないほうだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。3つの分野を書き出すと何が起きるかを確かめた研究はありません。発想を出す課題でも、判定でもありません。

TRY IT TODAY

  1. 01WRITE

    紙かメモアプリを開き、いま抱えている問題を1行だけ書く。規模は問わない。

  2. 02LIST

    その下に、構造が似ていると思う別の分野を3つ挙げる。**2つでも1つでも構いません。**

  3. 03SORT

    それぞれ2行。1行目、出てくるものが似ているか。2行目、ものとものの関係が似ているか。最後に「表面だけ」か「関係も」を付ける。

10分。**採点も判定もしません。**この号のどの研究も、個人の能力を判定していません。**他人については書かない。**勤め先の機密や他人の個人情報も書かないでください。つらくなったら中止し、続くようなら身近な相談窓口や専門家を頼ってください。

確かめられたのは4つ。1993年に、思い出されたのは見た目が似ているだけの話(.78・.53)で、骨組みが同じ話は .44・.12 にとどまったのに、健全さの評定では順位が逆になり(4.40・4.16 対 2.80・2.70。実験2の想起36人と評定20人は別人)、第4の研究が、忘れていたからではないと示したこと。

1980年に、物語とひとことで76%(完全解57%+部分解19%)が解き、統制は8%、教示の一文の有無だけで12人中11人と15人中3人に分かれたこと。1989年の実験1の効果が実験2の遅延で消え、11%→71%・7%→47%が比較条件だけの値だったこと。1981年に、8人と8人が同じ数のグループを作りながら、分ける基準だけが違ったこと。難所は、思いつくところではなく、思い出すところにある——というのが、この号の読み筋です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS類推を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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ISSUE 17884人のうち、当てたのは9人。ISSUE 180文章がうまいほど、良い説明に見えた。
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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。