IN BODY · ISSUE 032
● 12 SEC「習慣が身につくまで66日」。続けたいことがある人なら、どこかで見た数字でしょう。原典に当たると、66日は平均ではなく中央値——ばらつきの真ん中でした。範囲は、18日から254日まで開いています。
この号が扱うのは一点だけ。「続く・続かない」をめぐる日数の証拠が、どこまで確かかです。目標の立て方も計画の作り方も書きません。まず、その出どころから。
習慣設計(Habit Design)とは、続けたい行動が意識しなくても始まる形を、あらかじめ用意しておくこと。研究で測られているのは意志の強さではなく、その行動がその日どれくらい自動的だったかという毎日の自己報告です。「何日で身につくか」も、この報告の伸び方の話です。

続けている人に理由を聞くと、たいてい意志の話が返ります。けれど身体活動について10件・のべ3,899人を集めた2013年のメタ分析では、やろうと思ったのに行わなかった人が36%、思って行った人が42%。意図を持った人のおよそ46%が、行動に届いていません(思っていなかった人は、行った2%と行わなかった21%。四捨五入で合計101%)。前向き研究をまとめた値で、意志が原因だと示したものではありません。
0166日は、中央値だった。英国で96人が食べる・飲む・体を動かすといった単純な行動を1つ選び、同じ場面で毎日行って84日間記録した2010年の研究。自動化が頭打ちの95%に達するまでの日数は、中央値66日、範囲は18日から254日でした(この値は、後述する曲線の当てはまりが良かった39人についての値です)。66日は平均ではなく、ばらつきの真ん中。自分の締切には使えません。
02254日を見た人は、いない。記録が続いたのは84日まで。254日は、84日ぶんの記録に曲線を当てはめて先へ延ばした推定で、254日目まで観察された人は1人もいません。似た設計の2021年の無作為化比較試験(192人が食に関する行動を選び84日追跡・解析135人)では中央値59日で、きっかけを決まった動作にするか時刻にするかでは、明確な差は示されませんでした。
03全員が、同じ形ではない。96人のうち十分なデータが集まったのは82人、曲線を当てはめられたのは62人、当てはまりが良かったのは39人(82人の48%)。中央値66日は、この39人についての値です。残りの人が意志で劣っていたのではなく、単純な行動でさえ進み方が一様ではない、ということです。

数字そのものより、その使い方のほうが先にずれます。手がかりは3つ。
01日数を、締切にしている。18日から254日まで開いた幅の真ん中を、自分の期限にしている。66日も59日も10週間も、いま自分がどこにいるかを測る物差しにはなりません。
02「21日」を、確かめずに使っている。この基準の由来を報告した査読研究は、ALIFEが確認した範囲では見当たりませんでした(無いことの証明ではありません)。たどれた跡は1つ。2012年の British Journal of General Practice が、この俗説は形成外科の治療を受けた人がおよそ21日で新しい外見に心理的に順応したという逸話的な証拠に由来するようだ、と書いています。習慣の日数ではなく、変わった姿に慣れるまでの日数です。同じ論文はおよそ10週間を目安として挙げていますが、これは測定値ではありません。
031日の抜けを、失敗と読んでいる。2010年の研究は、そこも測っていました。1日実行しそこねた直後、自動化の得点は平均0.29点下がりましたが、これは明確な差とは言えない大きさで、1日の抜けによる長期的な損失は見られませんでした。この39人・84日までの範囲の話です。

では、何を置くか。もし、ある出来事が起きたら、その直後にこれをする。この形で先に決めておく手つきを、実行意図(implementation intentions)と呼びます。94の独立した検定・のべ8,461人を集めた2006年のメタ分析は、目標達成への効果を d で0.65(中から大)と報告しました。ただし、このメタ分析が測ったのは目標の達成であって、習慣が何日続いたかではありません。きっかけの決め方そのものを習慣形成の場面で比べた2021年の試験では、条件のあいだに明確な差は示されていません。この値をそのまま健康の場面へ持ち込むこともできません。食に関する行動に絞った23件のメタ分析(2011年)は、全体を d で0.43(95%信頼区間 0.28〜0.57)、内訳を健康的な食べ方を増やす側0.51・望まない食べ方を減らす側0.29と報告しています。このレビュー自身が、増やす側の数字は、対照条件の置き方が最適でない研究によって膨らんでいる可能性があると断っています。場面を絞るほど、数字は小さくなります。
持ち帰るのは日数ではなく、
18日から254日という幅のほう。
続く人は意志が強いのではなく、続かなくても戻れる形にしてある——というのが、この号の読み筋です。だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。日数を目標から外した側から、ALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
続けたいと思っている行動を1つ選ぶ。今日はまだ実行しなくていい。
- 02CUE
その直前に必ず起きている出来事を1件だけ書く。歯を磨く、鍵を置く、湯を沸かす。
- 03WRITE
「もし( )が起きたら、( )をする」の形で、1行にまとめる。
習慣の話は、たいてい日数から始まります。21日、66日、10週間。どれも自分の位置を測れそうにさせます。けれど21日は査読された一次情報に行き着かず、66日は18日から254日まで開いた幅の真ん中で、その254日を見た人は1人もいません。続いた人に理由を聞けば、理由は返ってきます——意志、覚悟、あの本。ここから先はALIFEの読みですが、続いたという事実が先にあり、説明はそのあとで選ばれている。だから最後に置くのは決意ではなく、先に書いた1行です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS習慣設計を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

